ただの日記

ホーチミンで暮らす人の毎日です

ベトナムの地方都市でタクシーにスマホを忘れてきた話

週末にベトナム中部クイニョンの大型リゾートに宿泊した。

 

ホーチミンから飛行機で一時間、クイニョンの空港は内陸にあり、海沿いのホテルまでは空港からタクシーで小一時間ほど走った。ホテルまでは極めてのどかな風景の連続で、牛が道路を横切ったりした。車が少なく、ホーチミンではあり得ない速度が出ていたので、結構怖かった。

宿泊したホテルは正に大型リゾート、ほとんどの宿泊客がベトナム人だったんじゃないかと思う。ロビーはたくさんの人がくつろいで賑わっていた。

 

クイニョンの都市部はこのリゾートからまた小一時間ほどかかり、都市部から空港も小一時間という正三角形を描いた感じの地理で、私達は同行の方の知り合いがやっている日本食レストランを訪ねて都市部まで出たが、おそらくリゾートを利用する人のほとんどがリゾート内だけで過ごすのだろう。

 

私たちは充実した週末を過ごし、ホテルを後にして帰路につき、リフレッシュは完了した…はずだった。

 

空港でチェックインを済ませセキュリティを通過し、ゲート前で荷物を整理する。

スマホがない。

 

タクシーではあったはずだ。スマホを忘れてないか気になって、寝てしまった子供を抱えながらバッグから出してその存在を確認して、ホッとしてその辺においた…

その後寝てしまい空港に着く直前で起きた私は、子供を抱えて車から出るのに必死で車内を確認するのを忘れていた。夫もゴルフバッグなど大きい荷物に気を取られていたという。

 

その場でタクシー会社に電話をする。ベトナムではタクシー一台一台に4桁程度の番号が振られていて、それを覚えていれば話は早いのだがそんなことはしていない。

英語ができる人はいないということなのでなけなしのベトナム語で状況を説明する。

なんとか私がスマホを忘れたこと、乗った場所(ホテル)と降りた場所(空港)、大体の時間を伝えると、折り返すからちょっと待ってくれということだった。

折返しの電話によると、ドライバーを特定してくれたそうで、ドライバーが持っているとのこと。ただ、その後言っていることがわからず、空港内のカフェで働いているお姉さん達にかわってもらう(お姉さんたち、ありがとうございました!)

ただ、お姉さん達もあまり英語が話せず、結局よくわからないまま時間になって飛行機に乗らざるを得なくなった。

 

とりあえず家に帰って、マンションスタッフにタクシー会社に電話してもらった。(スタッフの兄ちゃんありがとう!)曰く、「おめでとう!スマホは会社にあるって。ただ宅配便とかで送るとかはできないから直接会社まで来いって。行くしか取り戻せる道はないよ。」ということだった。

なぜできないのか?こっちがお金を払ってもできないのか?後から疑問は湧き出たが、その時は早く取り戻したい気持ちが大きくて、宅配便が到着するかヤキモキする時間が数日あることに比べれば、直接取りに行く方が私にとっても利点があると思えたのですんなり受け入れた。

 

「明日もう一度クイニョンに行く」ただし夫はもちろん会社だし、子供は一日幼稚園だが17時には迎えに行かなくてはならない。飛行機を検索すると、往路ホーチミン6:55発・クイニョン8:05着、復路クイニョン11:45発・ホーチミン12:50着以外にお迎え時間に間に合う選択肢がない。

 

8:05着、クイニョン都市部まで一時間として9:00。

11:45発ということは1時間前の10:45までに空港に着くことを目標にして都市部をでなければならないのが9:45。

本当にその会社ですぐに受け取れれば問題はないが、そうとは限らない。果たして45分の持ち時間でスマホを取り戻せるだろうか。しかしここはそれに賭けるしかない。

ちなみに飛行機はベトジェットエアー。LCCで、めちゃくちゃ遅延しやすいことで有名な航空会社である。そのことを考えると胃が痛いですが、考えても仕方がないと割り切った。

 

私はチケットを予約してもう一度マンションのスタッフの兄ちゃんに「明日の朝行くからそれを伝えてください」と言った。すると兄ちゃんは「え!?明日の朝!?!?まだスマホはドライバーが持ってて、そのドライバーは島に帰ったらしいんだけど」とか言う。

会社にあるんとちゃうんかい。なんでそれをさっきの時点で言ってくれへんの?どうせ行くわけないって思ったのかな?島って何?どの島?近いの?と頭がぐるぐるしましたが、「とにかく明日の朝、この便で行ってこの便で帰るからそれを伝えてくれ」とお願いした。

兄ちゃんは電話してくれて、先方とめちゃくちゃ長い間何か話しこんでいたけど、電話を切るや否や「No problem!明日行って大丈夫!」と言うではないか。どうあなたを信じればいいのかこの状況で、と伝えたかったが、英語もしくはベトナム語でどう伝えるかと考えているあいだに、兄ちゃんは私の(多分凄絶な)顔面を読み取って「Don't worry! Believe me!」と笑顔で言った。何を言っていいかわからず、オッケー…とだけ残して退散した。退散する私の背中に彼はGood dream madam!と追撃をかけた。

 

まともに寝付けず、朝5:00。夫と子供の朝ごはん、子供の幼稚園の準備は済ませておいた。wifi環境で通信できるようにラップトップ、もしスマホを取り戻せなかった時にSIMカードを買ってそれを入れるための古いスマホ、夫の電話番号、友達の電話番号などを書いた紙を準備して5:30に出発した。

タクシーがすぐ捕まらなかったらどうしよう、Grabがあれば呼んでこれるけど、スマホがなければGrabも使えない。しょっぱなからそんな不安もあったが、ありがたいことにマンションの前に一台停まっていた。朝早くからありがとう。

6:00には空港に着いた。ベトジェットを利用するのは初めてで、チェックインカウンターの混み具合にビビることひとしきり。さらにセキュリティーゲートにもめちゃくちゃ人が並んでいるのが目に入った。これはヤバい。並んでいては絶対に間に合わない。

一応予約の時に「プライオリティーチェックイン」のオプションを10万ドンで選んでたんですが、そんな区分けもなく、「All fright」と表示されたカウンターしか稼働していない…。よくよく周りを見渡すとセルフチェックインの端末が!誰も使っていない。

トライしてみると簡単に発券できた。(予約時に席を選択したのにもう一度席選択の画面が出て、それならばとちょっと違う席をタップしたら「予約時に選択してるのでもう選択できません」というメッセージが出てきて憤死したが、もうどうでもよくなってきた)預け荷物もないので、チェックインカウンターの長蛇の列に並ばずにセキュリティに向かうことができた。

 

無事出発ゲートにたどり着き、昨日の昼ごはん以来の食事となるフォーを食べる。これがあんまり美味しくなかったのが残念だったが、温かいスープに少しホッとした。時間通りにゲートも開いて安心したが、結論としては少し甘かった。

話は逸れるが、ホーチミンのタンソンニャット空港はゲートから飛行機までバス移動になることが多い。この時もそうだったが、バスで近くになったベトナム人のおじさんがなぜかリュックに日本のマタニティマークをつけていた。おじさんは一人で、同行人に妊婦がいるというわけでもなく、単にかわいいと思ってつけているのだろうか?とか、どこでゲットしたのか?とか考えてしまった。

さて、バスを降りて飛行機に乗るも、飛行機がなかなか動き出さない。明らかに出発時刻は過ぎている。(スマホがないので正しい時間がわからない)(腕時計をしてくるべきだった)

Safety reasonにより遅延、というアナウンスが流れて出発するまでの私のソワソワ感は、隣のベトナム人を動揺させるほどだった。

 

結局20分ほどの遅延でクイニョンの空港に到着。飛行機を降りるとやはりバスがいて、ダッシュするつもりの気持ちを折られる。10分ほどでバスが出発、30秒ほどで空港の建物に到着。歩かせてくれや!という叫びを胸にしまいつつバゲッジクレームエリアを走り抜け空港を出る。

昨日乗ったタクシー会社のタクシーを捕まえて乗り込む。この時8:35。到着してからまったく話が噛み合わなかったら間に合わないので、一生懸命ベトナム語で状況を伝え、会社に電話してくれと頼む。(ベトナムのドライバーは運転しながらの電話しまくる)

ドライバーのお兄さん、私のつたないベトナム語を理解して電話してくれるものの、すぐ切られてた。まだ事務所のワーキングタイムじゃないということだろうか?ベトナムの会社は8時からのところが多いので疑問に思っていると電話がかかってくる。

そういえばベトナムでは、仕事で個人の携帯から固定にかける場合に一旦切って固定から折り返してもらってる人が多いけどそれだろうか。そう思いながらお兄さんの発言をがんばってひろうが、意味がなかなかわからない。普通に別の話をしている気がするし長い。dien thoai(電話)、gui(送る)、tra tien(お金を払う)という語が聞き取れ、もしかして今電話は事務所になくて、郵送するからその金をとりあえずもらって今日は終わりにしようとかそういうことを話しているのか!?と不安になった。

しばらくしてお兄さんが電話を切った。私に何も言う様子がないので、やはり電話は別件だったのだろうか?と考えるも、「私の電話は事務所にありますか?」と聞いてみた。お兄さんは「は?」って感じで、それまでゆっくり話してくれてたのにいきなり早口で何か言われ、「hieu khong(わかってる)!?」と聞かれたので「わからない」と返し、会話はそこで終了した。こうなったら、着いてからがんばるしかない。

会社へ向かう道中、私のピリピリ感が伝わるのかお兄さんも結構無理な運転をしているような気がする。土日でも感じたが、クイニョンでは結構車がスピードを出す。のろのろのトラックも多いのでガンガンに追い越す。片側一車線の道がほとんどだが、がっつり反対車線に入って追い越す。しかも反対車線に車が見えていても結構お構いなしで、日本人にとってはスリリングである。ホーチミンノロノロ運転の車であれば、万が一事故になっても怪我の程度はたかが知れているが、ここで反対車線の車と正面衝突ということになったらヤバイと思う。

スピードを出してくれるのは時間がない私にとっては嬉しいが、危険運転はしてほしくない。しかもお兄さん、めちゃくちゃ電話がかかってくる。(昼過ぎの予定を相談しているっぽかった)

お兄さんが電話をしながら、大きめの交差点に入った。スピードもまぁまぁ出てる。車もバイクも多い。なんかちょっとイヤな感じがしたその瞬間、タクシーのお尻部分にバイクがこすれる音がした。衝撃はほとんどなかったし、バイクのおじさんもこけたりもしていない。お兄さんはめちゃくちゃ文句を言いながらスピードを緩めた。あぁ、この程度でもタクシーが接触したらベトナムでも警察呼ぶのかな…もう終わりだな…と思っていたところ、お兄さんはサイドミラーで相手のバイクを目一杯睨んで色々言った後、普通に出発した。色々と考えは巡ったが、一番には「たすかった…」と思っていた。

9:20、やはり小一時間かけてタクシー会社の事務所に到着した。ドライバーのお兄さんが一緒に降りて案内してくれる。クーラーが一部の部屋にしかないような、ザ・ローカル企業!という感じだった。お兄さんが事務所の人に向けてひとしきり説明してくれるが、話が通っていた感じが全くない。やっぱり…という気持ちと絶望感がないまぜになった。

事務所にいた人たちのうち、一番勢いのあるおじさんが、私が電話口で教えてもらった住所と名前を伝えると「ここじゃねぇ」「向かいの建物だ」という。もしかして向かいの建物に別部署があるのだろうかと思った。あまりのおじさんの勢いにドライバーのお兄さんも一緒に苦笑いをしながら一旦事務所を出て向かいの建物に行ったが、それらしい雰囲気はない。その辺にいる人にお兄さんが確認するも、やはり元の事務所を指されてしまう。意味がわからない。お兄さんと共にトボトボ帰る。するとさっきから奥の部屋から私達の様子を見てたお姉さんが出てきて、お兄さんと話をしてくれた。お姉さんは私にも色々聞いてきて、私もがんばって答えた。(昨日の何時にどこからどこまでのタクシーで電話を忘れたか、など)お兄さんがお姉さんに「もっとゆっくりしゃべってあげて!」と言ってくれてマジに感動した。そんなやりとりの後、お姉さんが何やら勢いのあるおじさんに言うと、おじさんが電話をかけている。(が、私の件に関係あるかどうかはわからない)

「ちょっと待ってくれ」とお姉さんに椅子を出されて座った。女の子が水を出してくれた。ドライバーのお兄さんはいつの間にかいなくなっていて心細くなった。いや、電話はここにあるのだろうか?それともどこにあるかわからない状態なのだろうか?一番知りたい部分がわかっていない。お姉さんにがんばって語りかけるもお姉さんはあんまり私のベトナム語をわかってくれない。お姉さんが「英語は話せるか?」と聞いてきたので「ベトナム語よりは」と答えると、上の階から英語ができる子が降りてきてくれた。

その子がいきなり「空港までのタクシーをよびたいのか?」みたいなことを言うからまた目の前が真っ暗になったが、その子は何も聞かされずに降りてきたみたいだったのでこれまでの経緯を伝えてもらった。「それで何が聞きたいの?」と言われたので「私の電話が今どこにあるかです!!」と必死の形相で返事した。その子がお姉さんに通訳してくれて(「これならベトナム語でも言えたのに…」と思った)、お姉さん曰く、「ドライバーが持ってる」と。昨日から一体何度目か、目の前が真っ暗になりそうになったが、「今ここに運んできてもらってる」という発言に一気に浮上した。すかさず「Mat bao lau a(どれくらいかかりますか)!?」と聞くと「20分」という。湧き上がる喜びとともに「多分今9時半は過ぎてる」「20分て言ってるけど多分30分はかかる」「それから小一時間で空港に戻ってチェックインに間に合うのか」色んな思考が巡った。

しかしここはもう、待つしかない。それからの20分は、もちろんスマホをいじることもできないし、かなり長い20分となった。

おそらく体感で20分くらい経ったころ、勢いのあるおじさんが何やら電話した後に事務所を後にした。不安そうな私に「もうちょっと待って」と言い残した。ふと自分の後ろを振り返るとそこに時計があった。9:55を指していた。帰りの飛行機は11:45発。1時間前にチェックインすることを考えると10:45。ここまで45分かかったことを考えると10時、つまり5分後に出発しないといけないことになる。

チェックインが出発何分前までOKかは空港や航空会社によって違うのでよくわからないが、国内線だし多めにみて1時間前、運が良ければ40分前とかだろうか。昨日は別の航空会社でチェックインの時には出発1時間前を切っていたが余裕だったことを思い出して、なんとか平常心を保った。

私はお姉さんに飛行機の時間のことを伝えた。するとお姉さんもあわててくれて、誰かに電話する。お姉さんは「もう1分くらいで着くよ!」と言ってくれて救われるような気持ちになった。

待つこと1分少々、私は昨日乗ってたタクシーのドライバーが、タクシーに乗って来てくれることを想像していたが、現実は全く違った。

勢いのあるおじさんが、バイクに乗って私のスマホを掲げながら到着したのである。

なんでそういうことになったのか、まったくわからなかったが、なにはともあれ私のスマホがマジで戻ってきた。

意外とちゃんとしてるというか、忘れ物を確かに受け取ったぞという書面がどこからか出てきてサインするよう言われた。

私は電源を借りて充電器を挿し、取り急ぎ夫に電話をした。私の方は完全にテンションが上がってて「お~い!!スマホゲットしたぞ~!!」という感じで報告したが、向こうは仕事中のテンションで「はい、よかったです、はいー」という反応だった。

この時時計を見ると10:05。すぐに空港に向かわなくてはならない。タクシーを呼んでもらおうかと思って外を見ると、なんと行きに乗ったタクシーのドライバーのお兄さんがいるではないか!私がどうせ空港に戻ると思って待っていてくれたのだ。ありがとうお兄さん。私はお姉さんや勢いのあるおじさんにめちゃくちゃお礼を言ってタクシーに乗り込んだ。

やはりきっかり45分かけて10:50に空港に到着、お兄さんから言われた額が行きと帰りで10万ドン違うかったのが全く腑に落ちないがそんなことを言っている場合ではない。お兄さんにもたくさんお礼を言ってダッシュでチェックインカウンターへ。40分前までチェックインOKということで、なんとか間に合ったのである。

ゲートにたどり着くと一気に疲労と空腹が襲ってきた。ただフリーの充電スペースが目に入ったので取り急ぎ夫と友達にLINEする。やりました。ゲートがあいてないから飛行機が無事飛ぶかどうかはまだわからないけど、とりあえずやりました、と。

結果的に帰りの飛行機は遅延なく飛んだ。私は爆睡をキメてホーチミンの空港に着陸してから飛行機の扉が開くギリギリまで寝ていたので隣のベトナム人に「寝すぎww」と笑われてしまった。もうここでスマホを忘れなければなんでもいいです。

 

予定通りに帰ってきて、13時すぎ。まだ1日の半分が済んだところだったが私としてはもう今日は何もしたくなかった。スマホを見てボーッとしていた。もう少し寝たかったが、神経が興奮している感じで寝られなかった。

事情を知る人に無事取り戻せたことを報告すると皆一様にびっくりして、喜んでくれた。

スマホをタクシーに忘れたことに気がついた瞬間は正直90%くらい諦めてしまったが、なんとか取り戻せて本当によかった。